【映像制作の基本】イマジナリーラインとは?初心者にもわかりやすく解説
映像の勉強を進めていくと「イマジナリーライン」という言葉を耳にしたことがある方も多いはず。
イマジナリーラインとは、向かい合う登場人物がいる状況などで、その二つの被写体を結ぶ仮想の線のことです。
映像制作をする上で必ず覚えておきたい基本原則なので、しっかり理解しておきましょう。
しかしイマジナリーラインは、シンプルなようでとても奥深い原則です。わかったつもりではいるけど、いまいち理解できない部分もあると思います。
この記事では映像クリエイターを目指す方のために、映像制作の基本となる「イマジナリーライン」についてわかりやすく解説します。
- イマジナリーラインについて詳しく知りたい
- イマジナリーラインがいまいち理解できない
- 駆け出し映像クリエイター
イマジナリーラインとは?
イマジナリーラインとは、向かい合った二人の人物を結んだ見えない仮想の線のことで、映像のつながりがおかしくならないようにするための原則です。
この線を無視して撮影すると、編集してつないだときに向かい合っているはずの二人の位置関係が崩れ、観る人に違和感を与えてしまいます。
つまり、登場人物の方向性(向き)や位置関係が崩れ、話の流れに矛盾が生じないようにするために考えられた映像制作の基本原則ということ。
二人が会話しているシーンを撮影する場合
たとえば、以下のような二人が向き合って会話しているシーンを撮影するとしましょう。
カフェで女性(A子さん)と男性(B男くん)が向かい合って会話をしている状況を想像してください。画面に対して、A子さんが左の席(下手)に座っていて、右の席(上手)にB男くんが座っていたとします。
向かい合う二人を結んだ線がイマジナリーラインです。
このように、二人の人物を結んだ線の手前側(①)にカメラを置いて撮影した場合、それに続くカットもすべて同じエリア側で撮影するのが原則とされています。
この場合、①の画につながる映像は、②もしくは③の位置からの画になります。④の位置から撮った映像につないでしまうと位置関係がおかしくなりますよね。
つまり、カメラは二人を結ぶイマジナリーラインを越えて撮影してはいけない。カメラがイマジナリーラインを越えて撮影してしまうと、つながりの悪い画になってしまうのです。
自然な映像の流れになるように撮影・編集する手法がイマジナリーラインの仕組みになります。
自動車や電車など動く被写体の場合
自動車や電車、それから歩く人などの動く被写体を撮影する場合も、イマジナリーラインを意識する必要があります。
動いているからといって難しいことはありません。動く被写体を撮影する際も先ほどと考え方は同じです。
たとえば電車の場合、走る線路上にイマジナリーラインを想定します。自動車の場合も走る車線上がイマジナリーラインになります。
そのラインを越えた映像同士を編集でつなぐと、方向性に矛盾が生まれてしまうで注意しましょう。
どこかへ「向かう」と「戻ってくる」を表現する場合に利用する
自動車でどこかに「向かうとき」と「戻ってくるとき」など、作品全体での方向性の一致にも気を配らなければなりません。
たとえば、行きが右(上手)から左(下手)で移動する映像で編集した場合、帰りはその逆の方向性を持たせ、左(下手)から右(上手)へと移動するカットをつなぎます。
そうすることで観ている人は違和感を与えることもなく、作品に集中してもらうことができます。
方向性は一つひとつのシーンだけに限らず、作品全体でも意識する必要があるのです。
人でも物でも複数の場合は手前に引く
場合によっては、三つ以上の被写体が登場することもあります。そういう場合はいちばん手前の二つの被写体をつなぐ線をイマジナリーラインとするとわかりやすいです。
また、変わっていく関係性に合わせて随時ラインを変えていく方法もあります。
たとえば、お父さんとお母さんと子どもが会話している場合。お父さんとお母さんの会話中は父と母にラインを想定して撮影し、お母さんと子どものやり取りになったら母と子のイマジナリーラインで撮影するといった感じです。
イマジナリーラインを越えるとどうなるのか
先ほどと同様、カフェで女性・A子さんと男性・B男くんが向かい合って会話をしている状況で解説します。
①のカメラ位置で二人のショットを撮ったら、それに続くカットは②のカメラで撮影した映像か、③のカメラで撮影した映像でつなぐのが基本です。
そのように編集することで、向かい合った二人の位置関係と方向性は変わらず、自然な映像のつながりになります。
しかし下のイラストのように、カメラ①の映像からカメラ④で撮った画につないでしまうと、右を向いて会話していたA子さんが、次のカットで左を向いて会話しているという状況になってしまいます。
この状況、おかしいですよね。
観ている人は急に人物の方向性が変わり、「何か起きるのかな?」「あれ? なんかおかしくない?」と疑念や違和感を覚えてしまうはずです。
つまりイマジナリーラインを越えて撮った映像をつないでしまうと、不自然な流れになってしまうのです。
なので基本的にはイマジナリーラインを越えないように撮影・編集しましょう。
不自然な話の流れや意味もなく観ている人に違和感を与えると、伝えたいことが相手にちゃんと伝わらず、観客は戸惑ってしまいます。作品の本筋を観てもらえなくなる可能性だってあるでしょう。
意図しない混乱や疑念はいい結果を生みません。
もしイマジナリーラインを越える場合はちゃんと意図を持って越えること。
イマジナリーラインは越えないほうが賢明である
まずはこちらの動画をご覧ください。
イマジナリーラインを意識したシーンでは自然な流れで進んでいきます。二人は座って話をしているだけなので、会話中に位置が変わることはありません。
しかし、イマジナリーラインを無視して撮影した映像をつなぐと、二人の位置関係がおかしくなります。
最初は画面右側にいた女性が逆を向いて会話していることに違和感を覚えませんか?
さらにイマジナリーラインを越えて撮影した映像は、登場人物の顔に当たる光の具合で見える印象も変わってしまいます。
意図していないにもかかわらず、相手に与える印象がつくる側の伝えたいことと異なるということにもなりかねません。
イマジナリーラインを無視して映像をつなぎ、観ている人を混乱させた結果、不要に考えるきっかけを与えてしまいます。
せっかく作品に入り込んでいた観客をその世界から無理やり引きずり出すことになりかねません。
すんなり映像に入り込んで作品に集中してもらうためにも、無意味にイマジナリーラインを越えないほうが賢明です。
イマジナリーラインを越える方法
イマジナリーラインは観る人を混乱させないための原則ですが、場合によって「どうしても越えたい」という状況もあります。
会話シーンでずっと同じ方向から撮影していると、背景が変わらないので代わり映えしない映像になり、観る人は飽きる可能性があります。
視聴者を飽きさせないためにも映像に変化を加えることは大切です。
そこでイマジナリーラインを“あえて”またぐことで背景を変え、映像に変化を与えます。
でもでも、そのままイマジナリーラインを越える前の映像と、そのあとの映像をつないでしまうと不自然になりますよね?
そういう場合は、方向性を持たない映像を間にさし込むことで対処できます。
ここでは、イマジナリーラインを越えたカットを違和感なくつなぐ方法を3つご紹介します。
- ワンカットで撮影した回り込みの映像をさし込む。
- 被写体を正面から撮影した映像をさし込む。
- まったく別のカットをさし込む。
ワンカットで撮影した回り込みの映像をさし込む
いちばん手っ取り早いのは、イマジナリーラインを越えて回り込む映像をワンカット(カメラを回し続けて撮影する手法)で撮影する方法です。
ワンカットの回り込みの映像があることで、観ている人は「回り込んだから位置関係が変わった」とすんなり理解することができます。
鑑賞する人を混乱させなければイマジナリーラインを越えても問題ありません。
被写体を正面から撮影した映像をさし込む
被写体を正面から撮った(方向性を持たない)映像を、イマジナリーラインを越える前とその後の間に入れる方法です。
イマジナリーライン上の「タテの映像」をさし込むことで違和感を緩衝することができます。
まったく別のカットをさし込む
イマジナリーラインを越える前とその後の間に、まったく別のカットをさし込むことで違和感なくつなぐことが可能です。
たとえば、爆発などの派手な場面を入れてから越えたカットにつないだり、第三者を登場させたりすることで、イマジナリーラインを越えても違和感なくつなぐことができます。
意図があるならイマジナリーラインを越えてもOK
映画でもドラマでも、不要な描写は描きません。必要だからこそ、その描写を描きます。つまり、「なぜそうするのか」という意図があればイマジナリーラインを越えて撮影した映像をつなげても問題ありません。
イマジナリーラインは絶対的ルールというわけではなく、あくまでカットの前後で位置関係を混乱させないための撮影テクニックのようなものです。そのテクニックをどう活かすかは創り手の自由でしょう。
あえてイマジナリーラインを越えて撮影したカットをつなげて、視聴者に違和を感じさせる映像にしたり、混乱させるような映像にするという演出もあります。
最近では、イマジナリーラインを越えることで生まれる違和感を駆使して、PVなどではあえて無視して撮影・編集することもよくあるそうです。
しかし、ちゃんとイマジナリーラインの概念を理解した上で越えること。
型をしっかり覚えた後に、型破りになれる。
(歌舞伎役者:中村勘九郎)
ルールをしっかり理解した上で、正しくルールを破ることで劇的な効果や新たな価値を生み出せるというものです。
イマジナリーラインを故意に越えることで、観ている人に違和感を与えたり、あえて混乱させて恐怖を煽ったりできます。
イマジナリーラインを守ることでわかりやすく伝えることは可能ですが、ただわかりやすさを追求するだけではありふれた映像になってしまうという恐れも。
たまには常識を破ってみるのもあり。
なぜ意図的にイマジナリーラインを越えるのか
そもそもなぜ、あえてイマジナリーラインを越えて撮影したカットをつなぐのでしょうか。
創り手の狙いとして次の4つのことが考えられます。
- 登場人物に大きな環境の変化を示す
- 心情の変化があったことを示す
- 観客をあえて錯乱させる
- 登場人物の上手と下手の関係を逆転させる
このようにイマジナリーラインを越えることで得られるメリットもあります。
もちろん越えないのが基本ですが、越えてはならない一線に“あえて”越えることで生まれる表現もあるのです。
ちゃんと狙いがあり、意図的にイマジナリーラインを越えるのは問題ありません。
ですが、「気づかずに越えてしまった」となると話は別です。
それはただのミスであって、作品のクオリティを下げてしまうことになりかねません。観る人にも不親切な映像になるので、それだけは避けましょう。
イマジナリーラインを越えないように撮影・編集するのが基本です。
しかし、その一線を越えることで生まれる表現もあるということも覚えておくことで演出のバリエーションは増えます。
撮影・編集時にはイマジナリーラインを意識しよう
そもそもなぜ、イマジナリーラインという原則が生まれたのでしょうか。
映画やドラマなどの映像作品は、視聴者を時間的に縛るという欠点があります。
小説やマンガならそれを読む時間は読者にゆだねられますが、表現のために動きのある映像や舞台などの場合はそれ自体の長さに左右されます。
映像作品をつくる上で「わかりやすく伝える」ということがとても重要です。
つまりイマジナリーラインとは、そんな映像を一度観ただけで理解できるように考えられた原則だということ。
イマジナリーラインを意識して撮影・編集することで映像の流れが自然になり、作品の一貫性が保たれます。作品に統一感を生まれるので、観る人にとってわかりやすい映像になるのです。
一連のシーンの中でいくつものカットに分けて撮影する場合や複数台のカメラで撮る場合はとくに、イマジナリーラインを意識しなくてはいけません。
自然な流れを保つためには位置関係と方向性の一致が大事な役割を果たします。作品全体で統一された方向性や位置関係が崩れてしまうとそこに矛盾が生じます。
それを防ぐため、映像の世界にはイマジナリーラインという概念は生まれました。
何事もわかりやすさが大事ってことですね。駆け出し映像クリエイターは基本に則り、イマジナリーラインを意識しましょう。
イマジナリーラインを見極めるコツ
二人の登場人物が座って会話しているようなシーンであれば、イマジナリーラインを想定するのは簡単です。
しかし、動く被写体であったり複数台のカメラで撮影する場合にはそれが難しくなります。
そんなときは舞台のステージと観客の位置関係を頭に浮かべてください。
舞台の場合、〈ステージという被写体〉と〈観客というカメラ〉の位置関係が崩れることはありませんよね。客席のどこから観ても、舞台上の役者さんたちの位置関係は変わらないはずです。
そもそもイマジナリーラインの概念は、観客が演者さんの奥に移動できない舞台演劇から発祥していると言われています。
つまり、舞台演劇を想像しながら撮影・編集することで誤ってイマジナリーラインを越えることはないということです。
イマジナリーラインを見極めるコツは「舞台のステージ(被写体)と観客(カメラ)の位置関係をイメージする」と覚えておきましょう。
まとめ
- イマジナリーラインは、観ている人が登場人物などの位置関係や方向性を混乱しないように考えられた概念である。
- イマジナリーラインを越えて撮影した映像をつなぐと観ている人に違和感や混乱を招くおそれがある。
- イマジナリーラインは絶対的なルールではなく、あくまで一つの基本の原則である。
- イマジナリーラインは不要に越えるのはよくないが、意図的に越えるのはあり。
- 基本はイマジナリーラインを守って撮影・編集するのがベストである。
イマジナリーラインは登場人物などの被写体の位置関係や方向性をわかりやすく見せるために考え出された、一種の撮影テクニックのようなものです。
イマジナリーラインをしっかり理解しておくことで映像の連続性を保ち、一貫性のある映像作品に仕上げることができます。
だけどときにはイマジナリーラインを破って斬新な映像にするのもあり。
イマジナリーラインは絶対に守らないといけないルールというわけではなく、あくまで基本のセオリーなのでクリエイターにゆだねられます。
しかし、やり方によっては作品のクオリティを下げてしまいかねません。活かすも殺すもあなた次第です。
イマジナリーラインの概念を理解しておけば活用の仕方も見えてくるでしょう。演出のバリエーションも増えるので、表現の幅も広がります。
基本のルールやセオリーを知らないよりは知っておいたほうがより自由になれる。これはどんな分野でも言えることです。まずは基本をしっかり身につけ、その上でうまく応用しましょう。
今回の復習としてこちら動画を参考にしてみてください。